介绍： 鈍
舞台『お父さんの恋』の稽古が始まった。
僕の役は、寝たきりの父、そして姉ふたりをもつ31の男だ就職もせずにフラフラしていて、家族の中での発言権はほとんどない。
だから、台本の中の台詞は、他の登場人物に比べればひどく少ない。稽古の間も、僕はたいていのじかん、舞台の上でただぼーとしている。なんにも言わずに家族に起こ...

介绍： 鈍
舞台『お父さんの恋』の稽古が始まった。
僕の役は、寝たきりの父、そして姉ふたりをもつ31の男だ就職もせずにフラフラしていて、家族の中での発言権はほとんどない。
だから、台本の中の台詞は、他の登場人物に比べればひどく少ない。稽古の間も、僕はたいていのじかん、舞台の上でただぼーとしている。なんにも言わずに家族に起こる騒動をながめているのだ。
演じてとしては、その口数の少なさがとても面白い。

「運、鈍、根」という言葉がある。どこで覚えたのかは忘れてしまったが、「運がよくて、少しぼーとしたところがあり、粘り強い」タイプの方がうまくいく、くらいの意味だろう。
回りの役者仲間も知らなかったから、この業界の格言でもないらしい。けれども僕はどういうわけだか、これを役者の心得だとずっと思い込んでいた 。
僕自身めはしのきくたいぷではないので、「鈍」の部分が特にありがたかったのだろう。仕事がうまくいかないときの逃げ口上にしていたふしもあるかもしれない。
「大丈夫、少しボートしているぐらいが役者としてはちょうどいいのだ」
なんでぐあいに。

けれども我々の仕事は、心を少し「鈍」くしているくらいが本当にちょうどいいのかもしれない。
俳優は基本的には「受身」の職業だ。約束した時間に、指定された場所に行き、あらかじめやれと言われたことをやる。せんじつめれば俳優とはそうした職業だと、僕は思っている。
もし誰かに「なきわめけ」といわれれば、こちらはワーワー泣き喚く。泣き喚くタイミングは僕以外の誰かが決めたものだし、なきわめくときの言葉すら、大抵の場合決まっている。
「なぜ、なきわめくんですか」
という質問は、基本的にはヒトリゴトだ。どんなことでも「ああ、そうですか」とうけいれなければ、話しは前に進まない。
また、この仕事は、しばしば同じことを繰り返す。舞台では毎日同じ会話を繰り返すし、映像でも、あちらから撮ったりこちらから撮ったりと、結局何度も繰り返す。アップで、とおくから、また時にはうしろ姿で、こちらはワーワーなきわめくことになる。
待つことも多い。映画などでは出番が来るまで半日くらい待つのはよくあることだ 。出番が来ても、スタッフさんがあれこれ作業する間、こちらは準備を整えて待っている。なきわめいて、十分くらい待って、それからまた、改めてなきわめくのだ。
時々監督や演出家のことが、神様みたいに感じられることがある。あわれで無力な俳優は、まるで神神の気まぐれに翻弄される古代ギリシャの人下のようだ。
さんざん演技をした結果、画面では豆粒くらいに映っていないこともある。
「別に僕じゃなくてもいいじゃないか」
と、こちらは愕然とするのだが、考えてみれば、
「誰かそこにいて」
というときのために僕たちは雇われているのだ、とも言えなくはない。
もちろんこの仕事には色々な喜びもあって、僕は結構気に入っている。心のどこかを麻痺させてでも「そこにいる」のがぼくたちのしごとなのだろう。
僕が演じる役のような、いわゆるニートと呼ばれる人々も、もしかすると彼らなりの理由で心を「鈍」くさせているのかもしれない。それが良いのか悪いのかは僕にはわからないが、俳優の立場から言わせてもらえれば
「そこにいて、なにもしない」
は、
「何かする」
と同じくらい大切なことだと 。「そこにいて」ということが、ただそれだけで感動的なことだってある。
もっともこれも「逃げ口上」といわれれば、それまでなのだが。