介绍： 【文本】

（天声人語）竹の秋

竹のおもしろみは、季節にあらがうようなところにある。秋に草木が色づく頃には青々として、自分だけ春の装いとなる。やや場違いなその様子は「竹の春」と呼ばれ、季語にもなっている。そして今の春の季節は「竹の秋」である▼

葉が黄色くなるのは、勢いよく伸びるタケノコに養分を回しているかららし...

介绍： 【文本】

（天声人語）竹の秋

竹のおもしろみは、季節にあらがうようなところにある。秋に草木が色づく頃には青々として、自分だけ春の装いとなる。やや場違いなその様子は「竹の春」と呼ばれ、季語にもなっている。そして今の春の季節は「竹の秋」である▼

葉が黄色くなるのは、勢いよく伸びるタケノコに養分を回しているかららしい。自らは秋に身を置き、若い仲間たちに春をもたらす。次の世代への思いやりにも見える▼

ときに優しく、ときに厳しく。次世代をどう育てるかが問われる季節である。あちこちの職場で、新たに入社した人たち、異動で新たな仕事を始める人たちの姿がある。新人研修でも実地の訓練でも、すでに育った竹たちの出番である▼

かなり昔になるが、学校を出て最初に入った出版社の研修で聞いた話がある。講師役は、少女向け雑誌に長く携わったベテラン編集者だった。子どもがいなかったその人は、読者の気持ちに少しでも近づこうと、自分のなかで架空の少女を思い描いていた▼

少女に名前をつけ、あの子はいま学校に行っているかな、友だちと遊んでいるかな、などといつも想像していたと話してくれた。学んだのは、雑誌を手にとってくれる人を常に考える姿勢である。どんな製品、サービスでも同じであろう▼

タケノコたちは、背の高くしなやかな竹に出会い、あの人のようになれるだろうかと不安を覚えるかもしれない。しかし誰でもタケノコの時代は悩みながら過ごしたはずだ。誰かから養分を受け取りながら。